流血しても怯まずに前へと出てくる強気の姿勢が、凄く気に入った。
ファイトスタイルは蹴りを中心とした攻撃が主体だが、どことなく洗練されすぎていて、レスラーとして小さくまとまりすぎているのが、以前は目に付いたのだが。
しかし今日、この試合に関しては、違うと言い切れる。
碧に対して向かってくる鬼気迫る表情は、観客の心に訴えかける十分なものを持っていたし、乱暴とも言えるような技の繰り出し方は、この試合に対する意気込みが感じられた。
先ほど出したドラゴンスクリューで、膝はかなり痛めているはずだ。
それでも、自分の最大の武器を捨てることなく、切れ間なく蹴りを放ってくる。
それを、全身で受けて、耐える。
いい選手だ。
でも、これからの育て方次第では、もっと凄い選手になれる。
やっぱり負けられないな、と思って、碧は跳んできた足を捨て身で拾うと、今日二発目のドラゴンスクリューを放った。
運命の日 9
なつきの声を耳にして、先程よりも力強く輝いている瞳を確認してから、碧をコーナーまで引きずっていってタッチを受けた。
すぐさまリングインしたなつきは、頭のダメージを気にしてふらついている碧を捕まえると、その首元に自分の腕を深く巻きつけて後方に捻りながら持ち上げ、そのままマットへと急降下で叩きつけていく。
なつきがこの短い期間で習得した技が、ローリングソバットと、裏投げだ。
もともと持っている決め技は、そんなに数多くなかった。
どちらかというと一つの技を大切に使っていくタイプの選手で、あまり試合で技を乱発するようなことを避けていたのだが、フィニッシュとして説得力のあるものがもう一つくらい欲しいと以前から考えていたようで、一人で悩んでいたのを知っている。
相談された時、裏投げを勧めたのは、静留だ。
女子の選手では、それまで誰も使っていなかったということもある。
それ以上に、なつきの全身のバネの良さを考えたら効き目は抜群だし、絶対にリングの上で見栄えするだろうと思ったからだ。
それから三日間ほど寝る間も惜しんで練習して、ここまで完成度をあげてきた。
不意をつかれて頭部を激しく打った碧が、蹲る。
それを無理矢理起こして裏投げを連発すると、なつきは上に乗り、フォールの体勢へと持っていった。
慌てて遥が飛んできて、レフェリーのカウントを阻止する。
静留はリングの中へ再び足を踏み入れると、なつきに覆いかぶさるようにして圧し掛かっていた遥の身体を持ち上げて、場外戦へと誘い出した。
なつきなら、大丈夫。
あのまま押し込めれば、碧からきっとフォールを取ってくれるはずだ。
波は、こちらに来ている。
そう判断して、遥の髪の毛を束ねて鷲掴みにすると、カウントを取りに行くなつきの邪魔をさせないよう、後方の客席まで引っ張り出した。
椅子に、叩きつける。
そうはさせまいと、後ろに金魚の糞のようについてきたガルデローベのセコンド陣を、振り払っては投げ、壁へと叩きつけた。
大きな歓声が起きる。
リングに目をやると、なつきのノーザンライト・スープレックスが碧に決まったところで、レフェリーの手の動きと共に、FWPファンがカウントを唱え始めた。
肩が跳ね上がって、ブリッジが崩れる。
三つ目を打とうとしたレフェリーの手が、マットを叩く前に鮮やかにその動きを静止した。
邪魔をするものは、いない。
静留の周囲に転がっている2、3人の選手には目をくれず、なつきの元へと戻ろうと、ゆっくりと歩を進める。
その瞬間、後ろから殺気を感じて振り向いた先に、あかねの竹刀が勢い良く伸びてきた。
「こんちくしょう!」
避けようとしたが、コンマ数秒、遅れた。
棒が耳を掠めて、肩口へと振り下ろされる。
それから、何度も滅多打ちされた。
竹刀の動きを見切って、その手首を掴む。
すると、再び観客全体がどよめきだし、反射的にリングを向いた。
なつきの身体は宙で回転しており、その動きと同時に、悲鳴がここまで聞こえてくる。
あれは、まずい。
今日、二発目のドラゴンスクリューだ。
最初の技でかなりのダメージを膝に受けていたはずで、今度のものは、ほぼダメ押しに近いだろう。
転げまわるなつきの髪を掴んで起こすと、碧はパワーボムをの体勢に入ろうと、なつきを抱えあげた。
冷や汗が、伝う。
危ない。
この前は、遥のあの技でフォールを取られているのだ。
あかねに向かっていた意識が消えて、なつきの方へと走り寄ろうと足を踏み出した。
しかし、それを見逃さずに、後ろから竹刀が首へと回されて、羽交い絞めにされる。
「行かさないから!」
「・・・っ!」
目の前でその身体が、振り子のように持ち上げられる。
「・・・なつき!」
前へ進もうとしても、身体が動かない。
静留は落ち着くように自分に言い聞かせると、まずはすぐ後ろにいるあかねの側頭部に、肘を何発もぶち込んだ。

Information
Date:2008/06/05
Trackback:0
Comment:2