SS倉庫(R18)

舞−HiME(静留×なつき)SS置場

慟哭 3


「・・・大丈夫ですか?」

腰を下ろす時に重く引きずっていた足を、なつきは見逃さなかった。
あの試合で相当静留に攻められていた膝が、もともと悪かった碧の足をさらに悪化させたであろうことくらい、容易く想像できる。

「まあ、ね。でも、手術することにしたから」
「手術?」
「うん、前から決めてた。あんたがここに来てくれることになったら、私が少しの間、試合休んでも平気だろうし」
「・・・どうして」

何故こんなにも、自分のことを欲しがるのだろう。
これでは碧は、自分の片足と引き換えに、なつきを手に入れたようなものではないか。

「聞きたいのは、何?・・・あ、今更来たくないって言っても、無駄だからね。あんたが失踪して新聞を賑わせている間に、しっかりとFWPとは話をつけたから」
「・・・約束は、守ります」
「うん、いい心がけだ」

さっきからなつきを見る碧は、とても楽しそうに笑っている。
足の痛みも相当だろうに。
何がそんなに嬉しくて、この前まで敵であった自分に、そう無邪気に笑いかけてくるのだろう。

「・・・聞きたかったのは・・・何故自分なのか、ということです」
「ああ、そうだろうね」

陽子は二杯分のコーヒーを入れると、そのまま碧の隣に腰を下ろした。
そして、柔らかな微笑を浮かべながら、続けられる言葉に耳を傾けている。

「正直言ってさ。別に玖我なつきには、拘っていなかったんだ」
「・・・え?」
「FWPの選手は、正直どの選手も皆個性があるし、まだ二年目くらいの若手の選手だって、しっかりとした自己主張をリング上でしている。うちと対戦した選手がどれもいい選手なのは見ればすぐにわかるし、別にあの結城って子でも、鴇羽って子でも、うちは構わなかったんだ」
「・・・じゃ、何故」

そんな理由じゃ、納得できない。
誰でも良かっただなんて言われて、そんな事じゃ、ここに来る理由なんてない。

「玖我なつきを選んだのはね。凄く、単純」
「・・・・・・」
「さっき名前が出た子は、あのままFWPにいても、そのうち頭角を現すだろうし、トップも張れるだろう。でも、あんたは無理だ」
「・・・どうして!」
「じゃ、聞くけど。レスラーになって、そこそこ人気もあって、恵まれている大きな会社にいて。それであんたは、これから一体、どうなりたいんだ?」
「・・・どうって」
「藤乃を倒して、自分がトップに立つという野望はないのかい?」
「・・・・・・」

静留を、倒す。
そんなこと。

考えなかったといったら、嘘になる。
レスラーでいる限り、上を目指すのは当然のことだ。
入団した当時は、あの赤いベルトをいつか巻いてやると思って、辛い練習を重ねていた。

でも。
静留がチャンピオンになって。
自分が、そんな静留のことを凄く大事に想っていて。

いつしかその夢は、自分の中では重要なことではなくなってしまった。

実力差がありすぎるというのは、単なる言い訳だ。
同期である舞衣は、そんなことは気にせずに、トップを目指して頑張っているのだから。

要するに。
自分は、静留を倒したいのではない。
追いついて、その横に立って。

認めてもらいたいだけだ。

ファンにではなく。

ただ、静留だけに。

「結局さ、試合を見ていてもそれが透けて見えたんだ。確かに、玖我はいい選手だ。根性もあるし、努力もする。でも、上にいこうとせず、そのポジションで満足していて。全然、見ている者に、がむしゃらさが伝わってこない」
「そんなことは・・・」
「ないって言い切れるのかい?」
「・・・・・・」
「藤乃は確かに、凄い。今回対戦して、それを肌で感じた。だから、選手として憧れる気持ちもよくわかるし、あれを倒そうって心に決めたって、生半可な覚悟じゃすぐに潰されるだろう」
「・・・・・・」
「でもね、あんたなら出来ると思う」
「自分が・・・?」
「そう。だから、簡単に言うと、こういう事。藤乃静留を倒す選手を育てるために、玖我なつきを選んだ」
「・・・・・・」

静留を。

倒す・・・?

「ま、そういうことだから。会社の話し合いでは、来年1月1日から、玖我はガルデローベへ移籍することになった。あくまでレンタル扱いだから、実際はFWPの所属だけど、練習や試合などは、こっちの方針に従ってもらう」
「・・・はい」
「詳しい話は、向こうのフロントで聞くといい。年末の最終戦には、さすがに顔を出すんだろう?」

そう言って碧は立ち上がると、話は終わったとでも言うように、事務所から出て行こうとした。
その背中に向かって、小さい声で呟く。

「・・・ここへ来たら・・・強くなれますか?」
「・・・なれるよ。あとは、あんたの心次第だけどね」

笑ってそう断言した碧に、なつきは軽く、頭を下げた。



 
 

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Date:2008/06/28
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