舞衣は今日セミファイナルで、なつきとシングルが組まれていた。
一騎打ちは、久しぶりだ。
最近はタッグを組むことが多かったから、ほとんど対戦する機会はなく、試合のカードを昨日突然知らされて、少し興奮気味に朝早く会場入りした。
お互いの手の内は、もう存分にわかっている。
タッグを組んでいる場合でも、相手に対する競争心のために常に気を抜くことが出来ないけれど、真のライバルは対戦することによってわかりあえると、舞衣は固く信じていた。
なつきに言ってやりたいことは、たくさんある。
でも、口じゃなく、技に想いを込めて、拳で語り合う。
それが、自分達の関係だ。
向かい合ったなつきは、穏やかですっきりとした表情をしていた。
会場の応援が全てなつきに傾いていて、舞衣が技を繰り出すたびにブーイングが起こる。
それならば、今日の自分は、あくまでヒールに徹すればいい。
そして、皆に自分の同期はこんなに凄い選手なんだってことを、心に焼き付けてあげたい。
おもいっきり、頬を殴りあう。
お返しにとばかり、身体に厳しい蹴りを叩き込まれる。
負けはしたけれど、あの試合を経験したことでなつきは間違いなく成長していて、一瞬たりとも気は抜けなかった。
切れ味の鋭い投げを、見舞われる。
すぐに起き上がって、自分の投げ技も叩きつけていく。
リングの上で、言葉は何の意味も持たない。
お互いの身体を通してのみ語り合える空間が、ここにはある。
全てを出し切って。
全てを受けきって。
二人にしか分かり合えない世界かもしれないけれど、それでも心のプロレスをすれば、観客にそれはしっかりと伝わるし、支持してくれるはずだ。
舞衣がパワースラムをなつきに仕掛けたところでゴングは鳴り、三十分の試合はドローで終わった。
リングに寝転がったまま、固く抱き合う。
「・・・今度はすぐに倒せるくらい、強くなってくるから」
「・・・私だって、負けない。なつきが鍛えてくる分、私だって成長するんだから」
少しだけ顔が歪んで、何か言いたそうにしているなつきの頭を、ポンポンと叩いた。
そのうちすぐにまた、リングの上で会えるから。
だから、大丈夫。
FWPは私たちに任せて、安心して修行に出てくるといいよ。
試合の後は控え室に戻らず、なつきは、メインの静留の試合を通路の奥から観戦した。
FWPの今年の最終戦を飾る、最後の試合。
変則式のキャプテンフォールマッチで行われている六人タッグは、FWPの持ち味ともいえるスピードある攻防を生かした形式で、次々と繰り出される技と目まぐるしい攻防に、ホールにいる観客全員の目は釘付けだった。
この試合形式では、相手のキャプテンからフォールを奪うか、もしくはそれ以外の選手を全員倒すまでは、試合が終わることはない。
対戦チームは、最初から静留を狙うことは諦めていて、組んでいる二人のベテラン選手を重点的に攻撃することによって、勝ちを拾おうとしていた。
リングの中では六人の選手が入り乱れているが、その中でも一段と眩しい光を放っている静留に、なつきはどうしても目が吸い寄せられてしまう。
静留の全てを記憶しておきたいと、思っていた。
次にこのリングで会えるのは、どれくらい先のことになるのかわからない。
一応、契約期間は半年となっていたが、自分自身の成長に納得がいくまでは、なつきは戻らないつもりでいた。
それが一年先になるのか、二年先になるのかは、全く予想がつかない。
しかし、わざわざガルデローベに行って、手ぶらで帰ってくること自体恥ずかしいことはないと思っているし、それでは何のために静留と離れて荊の道へと進んだのかもわからない。
向こうへ行くからには、退路を断つくらいの覚悟が必要だと、なつきは感じていた。
メインが終了したあと、全選手が再びリングにあがって、今年一年応援してくれた観客に感謝をこめて挨拶をし、一本締めをした。
なつきも深々と頭を下げる。
そのあとに、リングの解体を手伝っていたところ、多くの先輩たちがわざわざ控え室からやってきてくれて、なつきの背に声をかけて励ましてくれた。
一人ずつ丁寧にお礼を述べる。
後輩には、自ら出向いて、いない間のことをしっかりと頼んだ。
それから、全てが片付いた後、同期の三人で食事に行く。
プロレスのことは一切語らずに、いつものように、ドリンクだけでねばって、くだらない話ばかりをした。
腹を抱えて笑いながら、心おきなく付き合える同期の良さを、心の中で噛み締める。
帰りは、また明日会うような軽い雰囲気で、お互いに別れを告げた。
心残りは、全くなかった。
あとは静留に全てを伝えるだけだ。
今までの自分の想いの、全てを。
もし受け入れてもらえなくても、後悔しないように全てを伝えてから、ガルデローベへ旅立ちたかった。
明日。
私は笑って、静留に別れを告げられるだろうか。

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Date:2008/07/05
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